Ondine’s Curse オンディーヌの呪い

 Ondine’s Curse   オンディーヌの呪い のギリシャ神話などについてはWikipediaで

脳神経外科の雑誌にも総説があります。こちら

ギリシャ神話では、水の妖精オンディーヌは、彼女を裏切った夫(海の神・ポセイドン)に呼吸をするのを忘れるように呪いをかけ、ポセイドンは呼吸することを忘れて、窒息して死んだ、というお話です。


Friedrich Baron de la Motte-Fouqueの物語(1811年)で、裏切った男に、常に意識していないと呼吸ができず、眠ると呼吸が止まってしまう呪いをかけた、というお話になりました。

最初の“オンディーヌの呪い”症候群の報告は「Severinghaus JW & Mitchell RA, Clin Res 10 122, 1962」と言われています。脳幹部と高位頚髄の手術により延髄の呼吸中枢が障害された3症例で、肺胞低換気、睡眠時および覚醒時に無呼吸を呈し、睡眠中の呼吸管理を要したと報告されました。

呼吸中枢は、明確な核を形成しているわけではなく、むしろ種々の成分からなるいくぶん境界不明瞭なニューロンの集合体で構成されているようです。


以下、齋藤靖ら、睡眠・覚醒関連症候群. 臨床精神医学 増刊号、1994 で勉強した内容です。

呼吸の調節は、

 代謝性調節系 Metabolic control system

 行動性調節系 Behavioral control system

があります。

 代謝性調節系は延髄に中枢があり、化学受容器からの情報として、血液中の酸素分圧 PO2 を頚動脈小体で、血液中の二酸化炭素分圧 PCO2 を延髄・頚動脈小体で感知し、調整します。また、呼吸器系の固有受容器からの情報も用います。

 行動性調節系は、しゃべる、笑う、泣くなどの覚醒時の機能の発現に関与し、呼吸リズムや換気量に複雑な随意的あるいは不随意的な調節をします。行動や情動の情報は大脳や間脳から呼吸中枢へ入り、呼吸中枢の活動を調節することを介して間接的に呼吸筋の活動を支配します。呼吸筋の活動を直接的にも支配しています。

 呼吸の調節は、覚醒時は代謝性調節系・行動性調節系ともに呼吸を制御します。睡眠時、安定したNon-REM睡眠では、代謝性調節系のみが関与します。睡眠中に行動性調節系も関与するのは浅いNon-REM睡眠・REM睡眠での寝言・REM睡眠での不規則な呼吸パターンの発現の時です。

 オンディーヌの呪い症候群では、延髄の呼吸中枢自体あるいはその神経伝導路が障害され、代謝性調節系による呼吸の自動調節が機能不全になっています。高CO2血症による換気応答が減弱ないしは消失します。行動性調節系は問題ありません。行動性調節系を用いる随意的な換気努力がなされなと、慢性的な低換気状態になってしまいます。

 したがって、覚醒時は行動性調節系の働きによる換気努力によって呼吸を続けることは可能、換気低下を代償できます。しかし覚醒時も無呼吸がしばしば起きます。

 睡眠時、行動調節系が作動しませんが、オンディーヌの呪い症候群では代謝性調節系も作動しないので、低換気状態、致死的に陥ります。





延髄梗塞によりオンディーヌの呪い症候群を呈した2症例はこちら。この経験で、気管切開が死腔を減少させるので、肺胞低換気を緩和するのではないかと考えました。

この症例報告を引用した文献はこちらから。

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