血管性認知症

血管性認知症(vascular dementia: VaD)は、脳卒中が原因の認知症です。脳卒中と認知機能低下に因果関係があれば、血管性認知症と診断します。(三品雅洋:老年精神医学雑誌 27(12) 1289-1296, 2016長田乾ら:老年精神医学雑誌 32(10) 1068-1077, 2021)。

血管性認知症の概念の変遷についてはこちらの長田乾先生の総説が詳しいです。1672年、Willisが脳卒中による記憶障害・認知機能障害を報告しています。19世紀、初老期の認知症は梅毒が主因でしたが、1892年、Kippelが動脈硬化が原因の脳萎縮を報告しました。1894年Alzheimerが梅毒との鑑別で動脈硬化と脳萎縮の関連に着目しました。1894年Binswangerが8症例の報告の中でVaDの概念を示しました。

まだ脳の断層画像診断が普及していなかった頃、Hachinskiの虚血スコアが発表されました(1975年)。

特徴得点
急激な発症2
段階的な増悪1
動揺性の経過2
夜間の錯乱1
人格が比較的保たれている1
抑うつ1
身体的訴え1
感情失禁1
高血圧の既往1
脳卒中の既往2
アテローム硬化症の合併の証拠1
局所神経症状2
局所神経徴候2
得点7以上:血管性認知症の可能性が高い 
得点4以下:変性疾患による認知症の可能性が高い

つまり、VaDなのか、アルツハイマー病など変性疾患か、二者択一でした。

その頃、脳の断層画像診断が臨床の現場に登場しました。本邦では、

  • 1975年 東京女子医科大学に頭部CTが設置
  • 1979年 放射線医学総合研究所・秋田県立脳血管研究センターにPETが設置
  • 1982年 東芝病院にMRIが設置
  • 1982年 123I-IMPが開発、SPECTで脳血流測定が可能に

脳卒中の既往や画像診断で脳卒中が存在すればVaDと診断されるようになりました。1980年代の本邦の有病率の調査ではアルツハイマー型認知症よりVaDが多い傾向でした(小出浩久ら, 老年精神医学雑誌 27(12)1273-1280, 2016)。

1993年、米国国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke、NINDS)とAssociation Internationale pour la Recherche et l'Enseignement en Neurosciences(AIREN)による国際ワークショップで作成されたVaDの診断基準(NINDS-AIREN)が発表されました。この診断基準では、認知症・脳血管障害の存在と共に、両者の因果関係が強調されました。また、「脳血管障害を伴うアルツハイマー病」と「混合型認知症」を区別し、後者を避けるべき用語としました。

この診断基準で調べた宮城県田尻町(現 大崎市)の調査では、認知症の約20%がVaD、アルツハイマー病が圧倒的に多数でした。こちら

その後の研究で、血管性認知症とアルツハイマー型認知症の類似点が明らかになってきました。脳血管病変とアルツハイマー病の症状進行に密接な関連、危険因子の共通点から、アルツハイマー病理も血管性認知症スペクトラムの一部に含める考え方が出現しました。こちら。アルツハイマー病理があっても血管性認知症を否定しない血管性認知障害(vascular cognitive impairment:VCI)の診断基準が発表されました、こちら

2000年代以降の有病率調査ではVaDよりアルツハイマー型認知症が多い傾向です(小出浩久ら, 老年精神医学雑誌 27(12)1273-1280, 2016)。この総説では、プライマリー・ケアの現場でのVaDの過剰診断・過小診断、あるいはアルツハイマー型認知症の安易な診断の蔓延が危惧されました。MRIのétat cribléまで脳梗塞のように写ってしまう解像度とVSRADのZスコア、コリンエステラーゼ阻害薬の登場などが影響と。


ということで、VaDの診断は難しくなってきたのでした...


アミロイドPETで陰性なら、「脳血管障害を伴うアルツハイマー病」ではないと言えるでしょう。でも陽性なら、アルツハイマー病なのか、VaDとアルツハイマー病の合併なのか、あるいはアミロイド陽性は健常者でもあるのでVaDのみなのか....

バイオマーカーが現場に来ても、やっぱり病歴・神経学的所見・体液検査・画像検査などなど複数のモダリティで総合的に判断しなければなりません。

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